一度は行きたいと長い間その時を待っていた『越中おわらの風の盆』。
富山県のひなびた田舎らしいとは聞いていたけれど、何処のあるのか、
どんなところなのか、どうやって行くのか、何にも知らずにまた旅人になった。

途中の京都から乗り込んだバスガイドさん。うっとりするような
とっても素敵な声と端っからの下ねたと随所に魅せる博学と気遣い。
すっかり惚れちゃって、それはそれは楽しい2日間だった。



世界遺産・五箇山村相倉合掌造り集落

何かのおとぎ話に出て来るような風景に現実を忘れる

旅が日常からの脱却だという思いは割と強く持っているところがある。
小説や映画にもその傾向は強いのかもしれないが、旅人になってバスを降りたら
そこは異次元でなくてはならないという思いは経験を重ねるほど強くなる。

そしてこの五箇山村。ここは異次元そのものだった。
合掌造りの集落も一度は見てみたいもののひとつだった。
バスを降りたら突然に目の前に飛び込んでくるものだから、
ここは天国じゃないかと頬を引っ叩いた。




越中おわら風の盆


富山県の片田舎、八尾町は5000人の小さな町。
この町に一晩で100000人もの人間が訪れると聞いていた。
交通は、宿は、そして肝心の踊りはどうなっているの。

行ってみて、何がこれほどの人間を引きつけるのか少し分かった。
踊りの美しさ素朴さ優雅さ・・・言葉で表すことは難しい。
それに、どうやら私の拙い腕では写真で残すことも難しそうだ。

普通の観光地は一度行けば大抵のことは分かった気になる。
景勝地だって歴史的建造物だって名高い芸術だって、
何度も見に行きたいと記憶に残っているものは少ない。

どうやら、八尾とのお付合いは今始まったばかりのようだ。
阿波踊りのパワーには驚嘆という言葉が相応しそうだが
おわら風の盆の踊りには神秘の言葉が適しているように思う。




越中おわら盆 番外編


朝の5時に起きて12時間も高速バスに揺られて辿り着いた八尾。
しみじみとした踊りはそりゃいいけど乾いた喉もしみじみしたがっている。
地元の酒屋さんが仮設の椅子を並べて350ミリを230円で冷やしている。

嬉しいねえ、酔っ払いが此処で足を止めなけりゃ申し訳が立たねえ。
可愛いお嬢さんが「缶を拭きましょうか。」なんて言ってくれたら、
もう何処にも行く気なんか起こりゃあしない。腰を据えちまった。

むかし胡弓を弾いていたという地元のおっさんと商売下手な主人と
お迎えの時間が来るまですっかり盛り上がってしまった。
へべれけで酔っ払って集合時間に遅れたことは早く忘れよう。




奥飛騨温泉郷・新平湯温泉

しのぶ砂防ダム
ダムの下から
タルマの滝
月見草

八尾から奥飛騨までJRとバスでどれくらい掛かったんだろう。
ひどい泥酔で、どうやってたどり着いてどうやって寝たのか。
覚えているようでいないようで、よくは分からない。

瞬時に朝はやって来て、朦朧とした脳みその奥で「此処はどこ」と動く。
「写真」という言葉が浮かび、チャンスは今しかないと追い討ちをかける。
寝ぼけた意識の中、カウンターで「写真が撮りたい」と言っている自分がいた。

毛受母(もずも)川を堰き止めるしのぶ砂防ダムにちょっとだけ感動して
周囲を取り囲む奥飛騨の自然にマイナスイオンをいっぱい感じて
川のそばで発見した黄色い月見草に健気な生き方を教えてもらった





飛騨高山・郡上そして帰路

今も営業している飛騨高山の岩佐産科婦人科
朝市 我楽多市
上三之町 からくり人形
からくり人形を見る人々 長良川の釣り人
郡上八幡城 本物が見たかった
日本一の無駄使い・郡上市美並町の日時計 帰路



後記

おわら風の盆の噂を耳にして以来、どんな盆踊りなんだろうという謎は
なんと今回の旅でますます深まったというミステリーな結末は、
決して、私が230円に釣られて缶ビールばかりを飲んでいたからではない。
あの空前絶後の観光客とあれだけ繊細な踊りがひとつの空間に存在すること、
それは無理な話だと私の感性は叫んでいたんだ、歩き過ぎて足も痛かったけど。

またいつか、機会を選んで八尾を訪問したい。
その時はきっと、観光バスではなくキャンピングカーで乗り込み
三日間なんてもんじゃなく四日間は住みつきたい。
そしてあの踊りの真髄を探ってみたいものだと密かに思っている。

そういえば最近のバス旅行はだんだんキャンピングカーで旅の
予行練習のような趣きになって来ていることは徐々に気づいている。
仕入れた情報をこうして書き込みながらいざ旅立ちの時を待っているのかも。

このサイトを書き終えたらこの秋の次の旅を何処にするか、
すでに送られて来ている旅行会社のパンフレットとにらめっこしようと決めている。
11月に照準を決めて、またそれまでの期間をわくわくしながら待つことにしたい。